2021-07-10
赤虫がチャンピオン
あかむし - 思い出シリーズ#1
赤い、虫のような生き物。赤虫。
子供の頃、近所でフナを釣るのに最強のエサだった思い出。
あいうえお順に思い出のモノやコトについて書いてみることに決めた。
「あ」について、子供の頃を少し思い出して出てきたのが赤虫である。
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蚊の幼虫である、ということはその頃調べて知ってたと思う。多分ユスリカの幼虫であることも調べていた記憶がある。よく図鑑を見る子供だった。
今でも場所によっては多分その辺のドブ川なんかを探すと見つけられるんだろう。知らんけど。
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実家の近くに流れる川がある。小さな川。
今は整備されていて、人工的で小綺麗な雰囲気を出しているが、子供の頃はあまり整備が進んでおらず、野生みが残る雰囲気があった。
少し淀んでいて、葦などが生えているところがあり、そこでフナが獲れた。10cmから、大物で20cmぐらい。
網で適当にゴソゴソっと何度もやると、運が良ければフナが入っている。それだけでも楽しい遊びだったが、ある時、「釣ってみよう」と誰かが言い出した。多分僕だった気がするが定かではない。
しかし、竿も糸も何もない。
海釣りは父とよく行って、堤防から竿を出し、アジやイワシ、サバなどを釣っていたので多少の心得はある。
海の近くの製材所で働く父は、職場に釣り道具を保管してあって、釣りに行く時はまずそこに寄って道具を揃え、近くの堤防へ行ったのだった。
なので家に釣り道具がないのである。
しかし釣りをしたいので、家にあった梱包用のビニールのヒモを細く裂いて釣り糸とし、その辺に落ちてる棒を釣り竿としてくくりつけ、紐の先にその辺をほじくって見つけたミミズをくくりつけるという、最低限の釣りの形を真似てみたのである。
なんと、当たりがある!
棒にブルブルっと、フナらしき何かが食いついているのがわかる。
しかし悲しいかな、針がついてないので釣り上げることはできない。
当たりがあっても竿をあげれば全て空振り。
だがこれは釣れる!と確信した我々は、釣り針の確保に奔走した。
※「我々」というのはいつも一緒に遊んでいた近所の友達である。だいたいいつも4、5人はいた。
小学校卒業以降、会ったことはない。
そのうち一人はすでに他界していると数年前に母から聞いて知った。心不全で急死だったらしい。
父の働く製材所は自転車で20分ぐらいのところにある。そこからさらに5分ほど行くといつも父と行く釣り場がある。
我々はそこで、釣り針を探した。釣り客がその辺に捨ててあるのを拝借するのだ。
アジやイワシなどの釣りに使う「サビキ仕掛け」が捨てられているのがすぐに見つかった。
その辺の何かを集めて工夫して実現する、それが我々の流儀であった。昭和少年の日常だ。
竿も少しいい感じの竹を拾い、釣りらしくなった。
そしてフナを釣り上げることに成功したのである!
こうなるとさらにもっと釣りたくなる。針が少し大きくてかかりが悪いので小さいものを拾ってきたり、糸も細いのを探したり。エサもミミズ以外のものも試してみた。
試したエサは、小麦粉を練ったもの、イトミミズ、赤虫。小麦粉少しぐらいは家から拝借でき、イトミミズや赤虫は川を探せば見つかった。
バツグンに食いが良かったのが赤虫だった。イトミミズは細すぎて針につけづらかったので、数回試してあまり使わなくなった。小麦粉も悪くなかったが、我々の流儀になんか反するモノのような気がしたのだろう、これも使わなくなった。食いは割と良かったと思うが。
赤虫は間違いなくチャンピオンだった。
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今はもう釣り場にしていた淀みや足場も綺麗になくなってしまった。
整備された橋の上から川面を見ると、昔はほとんどいなかったコイとミシシッピアカミミガメ(当時はミドリガメと呼んでいた)がたくさんいる。隠れるところがなさそうだから、フナは多分いないだろう。釣りをする子供も。
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数年前の夏休み、当時小学生の息子が、近所の川でザリガニがいるので獲りにいきたい、というので行ったことがある。川といっても、少し大きな側溝のようなところである。
行ってみると、ザリガニがたくさんいた。
息子は少しビビっていたが、「背中をこうやって持てばハサミは届かんよ」と持ってみせた。
ザリガニも子供の頃によく捕まえたので、お手の物である。
少し淀んだところがあり、魚がいるのが見えた。モロコかモツゴかよくわからないが、それ系の小魚。
しかしその日はザリガニに集中した。
その夏休みに、その川にまた行った。
今度は家にあった釣り糸に針だけをつけ、小麦粉をこねたものを持って。竿は無し。
あの小魚を狙う。
針の先に小麦粉の玉をつけ、淀みに投げ入れる。ゆっくりと沈みながら、魚が寄ってくるのが見える。
釣れた。
5匹ほど釣れたかな。
息子も喜んでいたが、何より自分が一番楽しんでただろう。
赤虫ならもっと釣れるんだろうな、と思いながら。